『正欲』朝井リョウ著は、映画化されるほどの人気作です。
気になってみて小説を読破しました。
第一の感想は、
「衝撃的で忘れられない」
自分の考え方が偏っている と考えさせられます。
でも考えても、正しい答えなんて一生出ない。
「何が正解なんだろうか?」
人と話すときに、堂々巡りしてうまく話せなくなるほど、衝撃を受けました。
気になる方はぜひ読んでみて下さい。
- 読みやすいけど重ための物語を読みたい方
- 現代社会の生きにくさを感じる小説を読みたい方
- 「多様性」について考えたい方
話題になっている小説『正欲』ってどんな小説?
どのようなジャンルの小説か?
序盤は重要なポイントを隠して物語が進むため、何の話か全体が見えず、つまらなく感じる方もいるかもしれないです。けれども、読み進めていくと、だんだん状況が見え始め「多様性」という言葉がキーになってくることが分かります。
現代社会は、LGBTを認め合ったり、不登校の子供の個性を尊重することが大切だよね!
多様性を尊重しあおう!という風潮があります。
そんな多様性を認め合う中で、まったく理解できない価値観が登場したとき、
あなたはその多様性を認められるか?と問う小説です。
あらすじ(ネタバレあり)
この小説の中では、その価値観が「“水”に対して、性的興奮を感じる」4人の登場人物にスポットを当てています。
理解されない価値観を持つ彼らは、男女のつながりを求めずに生きていますが、SNSやYouTubeで同じ性癖を持つ人がいることを知り、意を決して知り合います。
ついに勇気を振り絞り、自分たちが興奮する水の動画を作ろう!と、人生で初めて自分の性癖を理解しあえる人たちと集まることになりました。実際に会い、動画の準備を行い水遊びを楽しみながら動画の素材集めを始めます。
しかし、途中で予想外の展開になります。
会社の同僚の子供がたまたま遊びに乱入してきました。
驚きつつも、彼らは子供には興奮しないので一緒に遊んだり、写真や映像を何枚も撮ったりしていました。それを見た同僚は「児童ポルノ」ではないかと違和感を持ち、警察に通報してしまいます。
そして、全員児童ポルノ所持で全員が逮捕されてしまいました。
性的対象は子供ではなく“水”なので、誤解なのですが、検察に理解されないと諦める4人は口を開かず、世の中から排除されてしまうのでした。
「正欲」をおすすめするポイント 3選
心に刺さる部分があり過ぎる
人と話す時に、無意識な発言のせいで相手は傷つかないだろうか?
言葉選びに神経を使ってしまい、会話をスムーズに進められなくなりそうでした。
自分の偏った考え方を見直すきっかけになる
知らないうちに固定概念に縛られていたんだと、考え方を改めさせられます。世の中には、自分の想像していないような考え方を持った人が沢山いるはず。それに対して、どう向き合うのか?考え方に耳を傾けるようにしたいです。
「正欲」を読んだ感想
この小説では、マイナーな考え方(本の中では性癖)を持つ人が、生きづらい生活をしている姿が描かれています。
自分が想像しておらず受け入れがたい考え方や価値観を持つ人に出会った時、声の掛け方が分からなくなりました。
自分は、割と正しく判断できていると思い込んでいましたし、社会は「こうあるべきだ!」と、当たり前に思い込んでいる部分がありました。それは自分の基準であって、他人の基準ではないんですよね。
自分の基準を伝えるのは良いですが、同調を求めたり、考えを押し付けたりすることは、自分の正欲を押し付けることだと思います。
SNSを見ていると、社会の声を内面化し、自分の意見として発信している人が多い気がします(多数派で居ようとする)。また、少数派の人は自分を可哀想な人間だと思い込み、哀れな自分を愛でて殻にこもる方も見られます。
自分は自分、相手は相手。
互いに尊重しあうには、対話が必要だと感じました。
自分の答えが正解かはわかりませんが、ここまでじっくり考えるのと、考えないのとでは、自分も他人も生きやすさが全然違うと思います。
小説中で刺さったフレーズ集
読み進めると、他人事ではなさ過ぎて、刺さったフレーズを記録しました。
文庫本のページ数を記載しています。
自分にとって不快なものを排除していくことが世の中の健全さに繋がると信じている人たちは、「時代がアップデートされていく」なんて喜ぶ。(P.334)
思想や情動も論理で説明できると思っている人たちが打ち立てる規制は、生身の人間の内側にはいつまで経っても到達しない。(P.334)
自分たちのような人間にとっての最後の砦は、そうでない大多数の正義によって、いとも簡単に取り払われる。取り払った側は、取り払った瞬間、目的が達成される。取り払ったあとは、次に取り払うべきものを探したり、その日の夕食を何にしようか考えたりする。(P.375)
「なんかおいしいものを見つけたときに二人分買って帰ろうかなとか思えるだけで、なんだろう、あー死なない前提で生きてるなって感じられるし、将来のこと考えて上下左右わかんなくなるくらい不安になる瞬間があっても、その不安を共有できる人がいるって思えるだけでちょっと楽になるし…」(P.373)
楽しみたいものを罪悪感を抱かずに楽しみ続けるための方法を、今のうちに見つけ出しておきたいのだ。(P.379)
まとも側の岸にいたいのならば、多数決で勝ち続けなければならない。そうじゃないと、お前はまともじゃないのかと覗き込まれ、排除されてしまう。みんな気づいているのではないだろうか。自分はまともである、正解であると思える唯一の依り所が、“多数派でいる”ということの矛盾に。
「正欲」朝井リョウ著